Vol.17 第17回本公演
JAPON(ハポン)
~我が祖国~

ある晴れた日、ひとりの老人が成田空港を降り立った。
麻のスーツにパナマ帽、彼はバナナをくわえてポソリとつぶやいた。
「ここは何処だ?」
彼は東京にやってきた。そこでみた風景は、記憶とはまるきり違っていた。
田んぼがない、市電がない。あるのは殺風景なビルと自動車、
そして騒音の洪水、彼は思わずバナナを落としそうになった。
「…ここは本当にニッポンか?」
彼がたどりついた知人の家には井戸がなかった。釜がなかった。
卓袱台すらなかった。あるのはヘンテコな機械ばかりであった。
老人は絶望した。こんなものはニッポンではなかった。彼はバナナを投げ捨てた。
「わしがニッポンを教えてやる!」

原案:吉村渓
作・演出:小倉昌之

1996年5月16日(木)~5月19日(日) 全6ステージ

会場:SPACE107(東京/新宿)

出 演
仁藤明彦
高畑加寿子
羽角聖美
丹治智浩
トラック高橋
渡辺幸枝
川端里子
入江謙舟
小倉昌之

STAFF

舞台監督:山口勝也(バーニングブルー)
美術監督:佐藤大樹
照明:大串博文(アステック)
音響:飯田博茂(飯田音響)
作曲:吉村渓
大道具:大谷憶寿
中道具:今井園子
小道具:丹治智浩 白石佐代子 鶴田さおり
衣装:羽角聖美
運搬:トラック高橋
表方:草野美紀子 奈良清子 仁田尾里美 永野美智子
制作統括:吉村賢太郎
娯楽通信:吉村賢太郎 羽角聖美 井村和人
企画・制作:劇団娯楽天国制作部(パラダイス・パーティ) 高畑加寿子 渡辺幸枝

STORY

東京の平田家では今日も一日が暮れようとしていた。家人の平田零子(羽角聖美)は、舅の平田徳治朗(トラック高橋)が例によってトイレを粗相しており、声を荒げていた。長女のOL平田一美(川端里子)は家事を手伝わず、長男の平田一郎(丹治智浩)は仕事もせず零子を困らせていた。しかし、どこにでもあるフツーの家庭の光景がそこにあった。

その平田家にひとりの老人が訪れる。彼はフジモリ・ジューゾー(仁藤明彦)。永く南米はコロンビアに移住しており、久しぶりで日本に帰ってきた。零子の遠縁だという彼は、日本が様変わりしてしまった様子に驚き、悲しみ、ついに怒りはじめる。そして「わしがニッポンを教えてやる」と発言し、平田家を混乱に陥れる。

ジューゾーは、徳治朗、隣家の老婆・源嶋つね(渡辺幸枝)とともに平田家の家族に、電気炊飯器では米は炊けないと釜で米を炊かせたり、卓袱台がないといってはこたつをもちこませたり、縁台がないといっては近くの公園からベンチを持ち出したり、好き放題を始める。零子は主人の平田小次郎(小倉昌之)に助けを求めるが、小次郎は、零子の親戚なのだからととりあわない。

そこへ、日系コロンビア人弁護士のセシリア・タチバナ(高畑加寿子)とコロンビア人のカルロス(入江謙舟)がやってくる。彼等は、ジューゾーの部下であった。実は、ジューゾーはコロンビアで大成功した日本人のひとりであり、莫大な財産を抱えていることがわかる。遺産相続できるかもしれないと知った零子たちは急にジューソーをチヤホヤしはじめ、何でも言うことを聞き始める。家族の情けない状況に長男の一郎はキれてしまう。

ジューゾーの行動は、更にヒートアップし、「わしがニッポンを変えてやる」と天皇陛下に直訴するといいはじめる。ついに興奮のあまり、ジューソーは持病の心臓病が悪化し、死んでしまう。

葬儀後、ジューゾーの遺産は、遺言によってすべて寄附されることがわかり、平田零子と小次郎は落ち込んでしまう。そして、ジューゾーから残されたたったひとつの石をみつめる一郎の姿があった。

公演メモ

・タイトルの「JAPON」は、スペイン語で日本のこと。
・娯楽天国ガイジン枠の入江謙舟氏は、2度目の出演。今度の役はコロンビア人。
・記録ビデオあり。

座長が当時を振り返って

「南米の日系移民といえばブラジルやけど、ブラジルはVOL.8「ブラジルの水彩画」で一回やっとるから、コロンビアにした。実はコロンビアにも多数の日本人が移住してるんやけどあまり知られていない。チラシのキャプションの「彼はバナナをくわえて…」とあるのは“ハバナ”の誤植。“ハバナ”とは葉巻のこと。しゃーないから、劇中でバナナを出すことにしたけど意外におもろいネタになったもんや。」