Vol.13 第13回本公演
OLD DAYS
…ま、やっぱりこの季節になると、どうしても昔のことを思い出すのう。
50年ほど前になるが、ニッポン中がサッカーで湧いていた時代があってのう。
いや、今でこそ公営ギャンブルじゃが、当時はまだ純粋なスポーツじゃった。
ワシも若かったから顔にペンキぬって応援にいったもんじゃ。
…顔じゃ。顔にペンキぬった応援団があったんじゃ。
…そんなこといっても当時はそれが流行だったんじゃからしょうがないじゃろ。
まぁ、あの頃は若い人たちが多かったからのう。流行は若者がつくっとったんじゃ。
信じられんじゃろ。ハハハハハ。
…ま、満足はしとるよ。ワシらには住みよい社会じゃからのう。
しかし、このままいくとどうなるんじゃろうと思わんでもないがの。
そのうち若者がひとりもおらんようになるかも知れんからのう。
じゃが、どうせワシら、そのうちおさらばする身じゃ。
あとはあんたら若い人たちが勝手にすればエエ。
先のことまで知らんわい。ハハハハハ。
そうそう、それからあの頃はやっとったんが…。
談・小倉昌之
2044年5月26日 収録
(チラシのキャプションより)
作・演出:小倉昌之
1994年5月27日(金)~5月29日(日) 全5ステージ
会場:SPACE107(東京/新宿)
出 演
仁藤明彦
羽角聖美
高畑加寿子
丹治智浩
高橋宏誌
鶴田さおり
白石佐代子
渡辺幸枝
飯田茂
松島大作(ホンキートンクシアター)
与那原寛雅
水科哲也
小倉昌之
STAFF
舞台監督:山口勝也(バーニングブルー)
美術監督:佐藤大樹
照明:大串博文(アステック)
音響:飯田博茂(飯田音響)
音楽監督・作曲:吉村渓
大道具:堀進太郎
小道具:あいまいもこ 高津装飾美術
衣装:羽角聖美
美粧:近藤明美
方言指導:佐竹英夫
運搬:トラック高橋
表方:草野美紀子 仁田尾里美 永野美智子
制作統括:吉村賢太郎
娯楽通信:羽角聖美 高畑加寿子
企画・制作:劇団娯楽天国制作部(パラダイス・パーティ)
STORY
2044年。日本は老人だらけの国になっていた。
ここは危ない老人達が巣くう秘密の地下室。入るためには合い言葉が必要だ。それもアホらしい合い言葉が。
秘密の地下室で老人達は「オールディーズ」、即ち過去の流行の遺物に浸って回顧していた。例えば、「アリス」のレコードであり、「キャンデーズ」であり、「ピンクレディー」であった。
だが、日本は徹底した管理社会に成り下がり、言論の自由も束縛されてしまっていた。老人の懐古趣味すら許されなくなっていた。だから彼等はアホらしくも地下に潜るしかなかったのである。
平穏な日々もわずかであった。ついに官憲の手が老人達の憩いの場所に忍び寄る。長老(仁藤明彦)は、元学生運動の闘士であったが、今はもうヨイヨイのじいさんとなって毎日を過ごしていた。しかし、官憲の魔の手が忍び寄った時長老の心は熱く燃える。「官憲と戦え!」長老は叫ぶが、老人達は立ち上がらない。業を煮やした長老はついに爆弾を手にして官憲と立ち向かう。そして最後は華々しくも突撃してゆくのであった。
公演メモ
・ 第“13”回公演を“13”人で演じるという誠に不吉なステージとなったが、事故もなく無事千秋楽を迎える。
・ あと数人で「1000人の壁」を越えられそうになるが辛くも越えられず、壁はいまだに立ちふさがったままである。
・ 小劇場界には「観客動員1000人の壁」という、それを越えた劇団だけが一人前といわれる壁がある。
・ 全共闘世代に熱く支持された作品となり、感激した元・全共闘の闘士に座長・小倉は自分の娘をやるとまでいわれる。
・ 俳優の高橋宏誌氏が演じたボケ老人「井守さん」は彼の当たり役に。これ以降もたびたび演じさせられる。
・ 女優・渡辺幸枝はこの作品が劇団初舞台となる。
・ 音響家の飯田博茂氏はこの作品からのつきあい。以降劇団の音響を専任で担当することに。
・ 劇団の後援者・盲目の画家で作家のエム・ナマエ尊師とはこの作品からのつきあい。チラシに賛辞文をいただく。
・ 劇中音楽は、全曲オリジナル。作曲は、音楽評論家の吉村渓氏。
・ 記録ビデオなし。
座長が当時を振り返って
「もうちょっとで1000人の壁がやぶれそうやったのになぁ。惜しかった。しかし、この公演の規模は過去最大やったかもしらん。打ち上げの人数もすごかったもの。あの打ち上げは劇団の歴史に残る打ち上げやで。」