Vol.15 第15回本公演
防災家族

あの日

思い出の映画館は消えた。
初詣にいった神社は潰れた。
高校時代通い慣れた街は焼けた。
正月に家族と過ごした建物は崩壊した。

TVの映像に泣いた。
なにもできない自分が悔しかった。
焼け跡で働く人々は力強かった。

「頑張るしかないやろ。」
見舞いに訪れたとき友人の姉さんはいった。
故郷の人たちのたくましさに感動した。

街は記憶の中にしかなくなった。
だが今度の街はもっと美しい街になると信じている。
いや、きっとそうなるはずである。

小倉昌之
(娯楽通信より)

作・演出:小倉昌之

1995年6月1日(木)~6月4日(日) 全6ステージ

会場:シアターモリエール(東京/新宿)

出 演
仁藤明彦
羽角聖美
高畑加寿子
丹治智浩
渡辺幸枝
松島大作
細川あゆみ(劇団民藝)
川鍋雅樹(劇団21世紀FOX)
石黒貴之(劇団21世紀FOX)
小倉昌之

STAFF

舞台監督:山口勝也(バーニングブルー)
美術監督:佐藤大樹
照明:大串博文(アステック)
音響:飯田博茂(飯田音響)
音楽・作曲:吉村渓
大道具:堀進太郎 大谷憶寿
中道具:今井園子
小道具:鶴田さおり 白石佐代子 高津装飾美術
衣装:羽角聖美 伊藤はるか
運搬:トラック高橋
表方:草野美紀子 仁田尾里美 永野美智子 加藤こずえ 加藤咲絵子 水科哲也
制作統括:吉村賢太郎
娯楽通信:娯楽天国編集部 吉村賢太郎 羽角聖美 井村和人
企画・制作:劇団娯楽天国制作部(パラダイス・パーティ)

STORY

東京都練馬区にある平山家は朝からそわそわしていた。平山泰子(細川あゆみ)の母、北条正子(羽角聖美)の遠縁にあたる神戸の源田原一家が疎開してくるからだ。源田原一家は阪神大震災に遭遇し、家や財産をなくしてしまった気の毒な家族だという。なんとか助けたいと思った正子は、一家を呼び寄せたのだ。

しかし、娘の泰子や長男の守(川鍋雅樹)は気乗りしなかった。そうでなくても狭い家のどこに家族を受け入れる場所があるのかわからなかったからだ。だが、練馬区の職員・橘正司(石黒貴之)は、正子の決心を褒め称える。隣家の主婦・藤原さん(渡辺幸枝)はただ面白がっていた。そして、平山家の大黒柱である婿の平山和男(仁藤明彦)は、この状況にとまどうばかりであった。

さて、ついに源田原一家がやってきた。源田原太郎(松島大作)・静香(高畑加寿子)夫婦と息子の小太郎(丹治智浩)の3人である。彼等は異様な格好をしていた。防災頭巾にヘルメット、手には軍手、背中には大きなリュックサック。静香にいたってはモンペを穿き、まるで戦時中である。
はじめは、大人しくしていた源田原一家であったが、阪神大震災の話になると泣くわ、わめくわ、大騒ぎ。そのうちに、平山邸は地震に耐えられないと、勝手に箪笥や食器棚に釘を打ち、固定してしまったり、大量の水を買ってこさせたり、平山一家を翻弄していく。

そこへ、源田原一家の檀家寺住職である弁海和尚(小倉昌之)が何故かやってくる。当たり前のように居座り、豪勢な食事を要求したり、大声で説教を始めたり、平山一家を奴隷のようにこき使いはじめる。勢いづいた源田原一家はさらに我が物顔で家中をかき乱し始める。

たまらなくなった泰子は発狂寸前となり、正子はわけがわからなくなり、守は怒りだし、和男はただおろおろするだけであった。こうして平山家は崩壊寸前となってゆくのであった。

そう、源田原一家こそ本当に震災に罹災したがどうかわからない、とんでもない”防災家族”だったのである。

公演メモ

・「阪神大震災」を扱い、劇中で「オウム真理教事件」のネタを持ち込むなどしたとんでもない作品。本番中、観るに耐えられなくなった観客が次々帰って行くという壮絶な舞台となり、この作品を境に劇団は観客動員が激減。劇団史上エポックメイキングな作品となる。
・しかし、座長・小倉は神戸の出身であり、実家も被災。脚本は、現地での取材をもとに「関西人の強さ」をテーマとして描かれている。そのせいか、関西出身の観客からは絶賛され、大阪から観に来ていただいた劇場オレンジルーム(現在は休業)のスタッフからは「是非大阪でやって欲しい」とのお言葉をいただく。
・劇中音楽は、全曲オリジナル。作曲は、音楽評論家の吉村渓氏。
・記録ビデオあり。

座長が当時を振り返って

「客がポロポロ帰っていく姿を、舞台上から見るのはほんまつらかった~。そんな非道い芝居やないと思うねんけどなぁ…。そやけど、本番後、実際に疎開してはるお客さんに会ったときは、目があわされへんかったしなぁ…。日本はブラックユーモアの伝統がないからなぁ…。観劇後怒りだした客が、ワシが神戸出身やいうのを聞いて泣き出したちう話もあった。あの震災ほど東京と関西の温度差を感じたことはない。しかし、この芝居で客が離れてしもて、いまだに戻ってきていない…。ほんま祟るわ…。もうこんなアホな芝居は2度とやりません…と思う。」